
1、治療に関する問題
むち打ち損傷の治療に関しては、事故と相当因果関係の認められる範囲について問題となります。
必要性・相当性を欠く診療(過剰診療)ではないか、事故と因果関係の認められる治療期間はいつまでか、遠隔地での治療を行う必要性が認められるか、症状固定時期の認定、東洋医学等の代替医療の問題、そして治療に要した費用が交通事故と相当因果関係を有するか否かなどが問題となります。
2、治療の必要性・相当性
被害者の症状の内容、治療の経過、事故態様、主治医の意見等を総合考慮して、後遺障害の存否、程度、治療の必要性、相当性を認定します。
3、治療期間
争点となる治療期間は、治療費のみならず、慰謝料や、休業損失の算定根拠となる入通院日数にも影響を及ぼすため、深刻な争点となることが多いです。
4、治療の中断、初診の遅れ
判例は、中断ないし初診の遅れについて合理的理由があるか否か、治療診断がなされたか否か、既存の傷害など因果関係を疑わしめるその他の事由があるか否か、期間中症状が継続していたか否かなどの事情を検討して因果関係を判断しています。
5、症状固定
判例は、事故による衝撃の程度、事故日から症状固定とされた日までの期間、その間の症状および治療内容の変化、他覚所見の有無、症状固定診断の経緯など事情を考慮して症状固定日を認定しているが、基本的には主治医の症状固定との診断を尊重するように考えられます。
6、診療報酬
診療報酬が適正か否かの問題は、被害者側も十分意識しておく必要があります。
健康保険の使用を検討すべきです。
なぜなら、治療費のうち過失相殺相当分を最終的に被害者が負担することになるから、被害者が最終的に受領する金額が減少する可能性があります。
また、被害者に既往症があり素因減額がなされたり、実際に治療を受けた期間の全てについて事故と因果関係が認められなかったり、被害者が予期していなかった不利益が生じることもあります。
また、加害者が任意保険に加入しておらず、かつ十分な支払能力がない場合には、事実上自賠責保険金(120万円)の範囲でしか損害の填補をうけることができないから、高額な自由診療を受けると治癒に至るまで必要な治療が受けられないことになります。また、慰謝料などの治療費以外の損害が填補されないことになります。
7、代替医療
柔道整復、鍼灸、あん摩マッサージ、カイロプラティック、指圧等の施術を受けたことによる施術費と事故との因果関係です。
これらの施術費については、症状により有効かつ相当な場合、ことに医師の指示がある場合には認められる傾向にあります。
訴訟上は、施術の必要性、有効性、合理性、相当性といった、医師による治療費以上に厳格な要件が求められています。
8、治療器具、薬品代等
医師の指示があるもの、あるいは医師の指示がなくとも必要性、合理性、有効性、金額の相当性などを満たすものは損害となりえます。
9、温泉治療
医師の指示に基づくものであれば損害と認められるよちはあるものの、被害者の自主的判断による温泉治療は医師等の専門家による施術でない点、必要性・相当性の判断は厳格になります。
10、遠隔地における治療
治療の必要性・相当性が肯定される限り遠隔地の診療機関であるとい理由のみで因果関係は否定されないが、遠隔地で高額な治療費を費やして治療を行った場合には、損害として認められる金額が制限されることがありえます。
11、付添看護費、付添交通費
むち打ち損傷の事例では、通常は付添の必要性は否定されます。
ただし、幼児の場合や脊髄損傷型などの症状が重篤な場合に認められやすいでしょう。
12、医師等への謝礼
むち打ち損傷においては損害と認められるのは難しいでしょう。
13、通院交通費
症状によりタクシー利用が相当とされる場合以外は電車、バス、の料金が、自家用車を利用した場合は実費相当額がみとめられます。